三重の百人対談

加藤秀夫さん×西井勢津子さん

第5回

第5回
加藤秀夫さん×西井勢津子さん

対談ダイジェスト
ものをつくることの意義

西井- 陶芸を始められたのは、元々陶芸家になりたかったんですか?

加藤- ものをつくったり絵を書いたりするのは元々好きだったですね。高校出た後くらいから、友達と信楽とか行くのが好きでした。行ったから好きになったのか、好きだから行ったのか、そこのとこなかなか分かりにくい部分なんだけど。

加藤- 使うっていうのは焼き物の中では大きな意味があるんですね。ティールームを営業しているので「これどうやな?」って生で聞かれる。いろいろ言われるというのは怖いことだけど、生の声で「私こっちの方がいい」「ちょっと替えて」とかその人の好みが出てくる。そういうのってすごく僕にとっては面白い。

加藤- つくるってめちゃくちゃわがままだし、めちゃめちゃ楽しい。ものをつくるっていうのはまず自分で考えないとだめなんだわ。人がこうだから、社会がこうだからじゃなくて。僕らのやることっていうのは、徹頭徹尾自分らしいものをつくるってことやろうね。それ以外に存在の意義はない。

「シニカル」とその先にあるもの

加藤- 以前、「加藤さんってシニカルだよな」って言われたの。物事に対してシニカルって絶対必要だと思うんだよ。物事っていうのはある程度懐疑的に、YesかNoかってのをまず自分で吟味する。

加藤- 赤塚不二夫はすごいシニカル。あの人のすごいのはその先を行った。先を行くために何をとったかというと笑い。人ってずっと自分なりにつき進めていくと、最後は笑いになるかな?全部笑い飛ばしていく、人間の考えて解決つくことって限られるから。

西井- 反省したり落ち込んだりするのが好きなんですけど、落ち込んでるふりをしているんじゃないかなって思うこともあるんですよ。人の助けを求めているだけなのかなって。最後は自分だけで考え抜いて、その自分までも笑い飛ばして人に伝えられるようにならないといけないのかなって。

社会と私の関わり方

西井- 社会貢献という言葉が何か1人で躍ってるような感じがしてて。社会貢献をするために仕事をするとか、生きていくとかってちょっと変だなと思うんですよ。目的が手段化する、という違和感があって。

加藤- 社会のカオスといわれる混沌としたパワー。明確であれば対応しやすいけども、混沌としているだけに、なかなか対応しにくい。パワーの中にのまれていってしまう。

加藤- だから自分というものをしっかり考える。考える自分がいて、自分もその社会の一員であるという社会があり、それをどんな風に関係を維持していくかを持たねばならない。今の時代って本当に、豊かに生きれると思う。

西井- 社会というのは人それぞれの捉え方があるわけだから、1つそこを解決しようとする誰かが、答えが出せるものじゃないじゃないですか。

加藤- 考え続けること、関わり続けることが必要でしょう。

西井- 関係づくりとかよく言うんですけど、相手に関心を持つことだなってすごく思うんですよ。無関心ってことがなくなったら、多分どんなことでも関係性は生まれて、社会とか公とかいうことだって解決していくんじゃないかって思えたりして。

加藤- 俺、若い人に「欲張れ」「偉くなれ」と言う。偉くなれというのは、役職が高くてじゃなくて、ポジションが高いと色んなことを考えざるを得なくなる。いろんなことを考えた方が絶対面白いし、楽しいし、自分のためになる。そういう意味で「欲張れ」と。

続けることの大切さ

西井- 私自身の来た道をたどってみると、どこか潜在的に好きなものを選んできたんだろうなって思うことがあるんです。天職とか天命とかを漠然と求めているよりも、自分の潜在的な「好き」だったり「感触」だったりの所に、ちょっとずつ進んでいくことで結果的に天職だったのかなと思うのかなって。

加藤- どんなことでも「やめたいなー」とかいろんなことがあった上で、ずっとやり続けてきた結果として言えることで、今はスタート時点でそれを判断してしまう。スタートは「やってみたい」でいいわけだよね。全然違ったらその時また考えればいいことだし。

加藤- でも続けた結果こそ分かんないことなんだから、初めからは言えない。焼き物がだんだん分かってきた、面白くなってきたというのはそこなんだよね。続けてきた結果として面白いなあって。

西井- 「これが天職でした」って言っている人たちが、どれだけの時間続けてそこにたどり着いたかっていうのはすっ飛ばして、「天職にめぐり合えて幸せ」ってところだけ切り取っちゃってるんじゃないかな。

加藤- 1つのことを続けていると、それを突き抜けて違うものが見えてくるみたいな。でも次につながるものがなければダメ。ここが重要なことだと思う。少なくともつくり続けてきたことから今があると思っている。だから多分これからもつくり続けていくだろう。その中で色んな展開があるかなって。

 

プロフィール

加藤秀夫さん

陶芸家。菰野町湯の山で「雲母窯」、工房・陶ギャラリー&ティールーム「萬卯」を開設しつつ、作陶指導などの活動を精力的に展開中。

西井勢津子さん

株式会社地域資源バンクNIU 代表取締役

東京でのサラリーマン生活を経て、結婚を機に名古屋で暮らす。
2005年NPOバンク「コミュニティ・ユース・バンクmomo」の立ち上げに携わり、2010年まで副代表理事として主に融資業務を担当する。
2006年より特定非営利活動法人起業支援ネットに勤務。事業推進局長として、主にコミュニティビジネスの起業支援、中間支援者育成事業に携わる。
農山村の仕事おこし、農山漁村コーディネーター兼中間支援事業を志し、地元三重にUターンするべく、2010年6月、多気町丹生にて空き家を借りて起業。
そのほか、東海若手企業塾 コーディネーター
「美し国おこし・三重」ファシリテーション研修 コーディネーター

 
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