対談ダイジェスト
縁でつながるインキュベーション事務所
雲井:丹生の地にインキュベーションの事務所をたてられた経緯をお伺いできますか?
西井:実は丹生という地名で探した訳ではなかったんです。農山村の地域資源ということに可能性を感じていて、山と海に囲まれた地域で空き家を探しました。いろんな地域で地域づくりをやっている方に、「空き家はありませんか」って空き家を求める流浪の旅みたいに放浪してたんですよね。そこでご縁をいただけたのが今の場所です。
西井:今、事務所として使わせていただいてる家に住んでいらした方は、地域のことをとても大切に考えていらっしゃって、地域の人が出入りしてくれるように茶室をつくられたり、和室をすぐに土間のような形で入れるようにしたりと、地域の人に開放するような家をつくってらした方だったんですよね。
西井:あがらせていただいた時に「ああご縁だな」と思ったんです。私の話を聞いてくださって、事務所としても使っていいよって言ってくださるっていうのは、他にないだろうと思うくらい有難いお話でした。
空き家対策の難しさ
西井:行政の人が移住定住支援政策を考えると、新しい家を建てる助成金とか、そういう話になるんですよ。
西井:元々建っている空き家をどうこうできないし、なかなか借りられないから、もうここにおうちを建てたらどうだって。でも実は私たちはそこに価値を求めていない。農山村に惹かれて来る若者は新しく建てたうちに住みたい訳じゃない、っていうギャップがまだまだあると思うんです。
西井:一方で、行政の方にも限らず地域の方々の元々持っているものに土足で踏み込むようなことはしてはいけないでしょうし、間を取り持つ人も必要なんじゃないかと思います。このインキュベーション事務所のひとつの役割として、地域の皆さんに迷惑をおかけしないような形のコーディネートをさせてもらったり、若い人達のあまり聞かない声を届ける入り口にもなりたいなと思っています。
農業の大変さ
雲井:これからの農業は厳しいですね。このままでは日本の農家は崩壊します。
雲井:一つは自己崩壊。だんだん高齢化しちゃって担い手がなくなって、一旦街に出てしまった世代の人達は、農作業ってそう簡単にはできませんから、そこで結局は地元に帰って来ずに荒地になる。
雲井:それから、日本の農業自体を国際競争の中に変えていかなきゃいかんということになってくる。平野の農業というのは何とかできるかもしれない。ただ、中山間地の農業っていうのはなかなか効率化できないですよね。有機農法とか、違った手間の掛かる部分を市場価格で売ろうと思っても、それだけでは採算のらないですよね。
雲井:そこで6次産業って言う話が出てくる。丹生での「まめや」さんの存在がその良い例です。1次産業である農業だけでは採算にのらないから、レストランなど3次産業もやる。で、3次産業だけではなくお味噌やお豆腐もつくっている・・・これは2次産業ですよね。1の上に2と3を乗っけて6次産業。
農業の可能性
雲井:3つをやりながら、そこに家族の大切さを実感してもらうとか、そういった精神的な教育システムが一緒になっているというのが、これからの中山間地農業の1つかもしれません。あるいは、都会で疲弊した若者達が戻ってきて新たな活力が生まれるとか。こういう1つのモデル地区を作っていかないといかんのかなって思いますね。
西井:おっしゃるとおりです。これからの農業は、教育要素をちゃんとビジネスに変えていくスタイルができるだろうと思っているんですね。
西井:全国的には事例があります。お金に換えられない3Dの農業の世界を、全部丸ごと味わっていただくっていうことが新しい価値になるというモデル。人をこっちに連れてくる、それで体験してもらう。それは企業の人材育成効果かもしれないですし、観光客のちょっとした立ち寄り所になるかもしれないですし、農業という出発点を切り口に色んな掛け算や足し算をやれるような感触は持っているんです。
西井:それをインキュベーション事務所で若い人達と一緒に考えていきたいです。1人ずつが自分の生き方・働き方はこれだっていう風に決めて、支えあいながらやっていきたい。その人達の力が発揮できるような場を作っていきたいと思っています。