三重の百人対談

木村俊昭さん×岸川政之さん

第2回

第2回
木村俊昭さん×岸川政之さん

対談ダイジェスト
少年時代の思い出

木村- 私が小学校に入る前は、いつもばあさんに連れてかれてお寺に行っていた。なんでついていくのかと言うと、寺に行くとみそ汁と漬物が食べられるんです。それで毎日のようについて行くんですね。
寺に行く道すがら、ばあさんは、「人にものを頼まれたら気持ちよくね」と言うんですね。帰りもまた「人にものを頼まれたら気持ちよくね」と言うわけです。
で、今度母親の話になるんですけれど、母親がいつも私に言っていたことに、弟が5歳年下でいますけれど、「いいかい、お父さんが最もあなた方のことを愛していますよ」としか言わないんですよ。
1つのことを伝えるというのは、たくさんいくら言っても残らないんですね、子どもに。それがばあさんから母親に伝わっているんですね。だから私が今、子どもいますけど、私の娘に一言しか言っていない。

岸川- 僕もね、小さい頃お寺に住んでたんですよ。小さい頃は貧しくて、裸電球の下で、お菓子はなかったですね、食べるものがなくて、という生活でした。僕の家は非農家でしたから、農家の子供たちがあられを持って歩いているのを見ると、羨ましくてそういう思い出があります。
うちの親父が今年の2月に亡くなりまして。最後は車の運転ができなくて、最後の5年くらいは親父の楽しみは私と2人で月に1回か2回行くパチンコですね。最後は目が見えなくなってきて、ほとんど介護パチンコみたいになったんですね。僕は仕事で眠たいんですけど、父はパチンコを楽しみにしてますから、手を添えてやってやると、見えない目で見ながらパチンコをやってました。まあ本当になあ、と思っていましたけど、亡くなった日が2月22日なんですよ。ちゃんとフィーバーしてました。でもね、亡くなってから思うのは、僕は親父のためにパチンコへ連れていってるんだと思っていましたけど、今思うと親孝行する機会を僕に与えてくれていたんだなあと。もうちょっと生きてたらもっとパチンコに連れて行ってあげたかったなあ。

絶体絶命のピンチ

木村- 目標を立てていたんですよ。「産業文化をしっかり地域から発信する街づくりをしたい」ということと、「小学校・中学校・高校と、未来を担う子供たちを愛着心を持てる子を育てたい」、この2つの目標を持って行政職員になったんですね。
寿司の評価基準を作りますと言って、87項目チェックリストという市の評価基準を作ったんです。そうしたら寿司屋業界から命を狙われましてですね、「お前だけじゃないぞ、家族も危ないぞ」ってね。身動きつかないぞと思ったんですが、簡単なんですよ、解決する方法は。寿司屋業界でえらいと言われている人に来ていただいて、「このチェックリストは素晴らしい」と言ってもらえば「なんていいやつなんだ」と変わるんですよ。そこで何が大切かと言うと、職人さんも含めて「気づき」なんですね。いくら私たちが言ったって駄目なんですよ。「何をおまえは言ってるんだ」ということになるんですよ。だから気づきをいかにつくるかということなんです。チェックリストをこうやっていくとですね、「ここはうちは弱いな」とか「ここは強みだな」ということを知っていくんですね。

岸川- 2年位前に「せんぱいの店」っていう株式会社を立ち上げたんですよ。多気町には就職口がないので都会に出て行くんです。帰ってきたくても帰って来れないんですよ。その受け皿を作ってあげたいな、と。
10年とか15年すると一丁前になって戻ってくるんですよ。店を開きたいと思って帰ってきたときに、彼らは料理の技術はありますけれども、経営するノウハウは0です。
いろんな提言をした中で、相可高校のストーリーがあって惣菜とかをやれるような「せんぱいの店」って言うのがあると良いですよね、って言ったら、じゃあやりましょうということで、話をどんどん進めていくんですけれど。ところが出来上がる6月、7月くらいになると、到底出せない資金が要るような計画なんですよ。でもですね、もう辞めてきている子がいるわけですよ。この子たちの責任はどう取るんだろうと思って、寝れなくなりました。そういう子たちをどうやって面倒見ていくんだろう。そしたら体調崩して2日間病院に行きました。あの時のあんなに苦しい思いはなかったですね。最大のピンチでした。どうしようかと結局、手紙作戦とプレゼンで乗り切りましたけれども。あれは厳しかったですね。

たくさんの人の多様な関わり

木村- 一番大事なのは、ディスカッションパートナーをどれくらい持てるか。さっき誰も助けてくれなかった、っていうのがそうなんです。例えばリーダーがいて「これは誰が責任取るんだ」ってもし言ったとしたら、これはリーダーじゃないんですよ。責任を取るのがリーダーなんです。「これは任せとけ」「この部分は俺がやるから」って言ってくれるのがリーダーであって、突き放すのがリーダーじゃないんですよ、そもそも。だから、そこをしっかり責任を持ってやるから、お前はここをちゃんとやり切れと、言ってくれる人を何人持つかということなんですよ。

岸川- 僕がこうやってみんなと楽しめるのは、いろんな人がいるとすごい化学反応がいっぱい起こすんですよね、1対1の付き合いというのは限界がありますけど、こんだけすごいメンバーが集まると、大体いつも集まるメンバーの3割ぐらいが講演できるメンバーなんですよね。そうするとね、すごい楽しい。

 

プロフィール

木村俊昭さん

北海道遠軽町

農林水産省大臣官房企画官
地域活性学会理事

岸川政之さん

多気郡多気町

多気町農林商工課課長
まごの店・せんぱいの店の立役者

 

(2010年8月)

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