サイクリングマップ考その1:そのマップは誰のため?

サイクルツーリズムの施策で、必ずと言ってもいいほど登場するのが「サイクリングマップを作る」こと。ターゲットを誰にするかによって、マップの作り方や意義が大きく変わります。今回はサイクリングマップについての考察です。

 

やはり大事なターゲット設定

サイクリングマップを誰のために作るかといえば、地域外から来たサイクリスト向けというのが一般的なサイクルツーリズムのあり方です。そのサイクリストには競技を目的とした方と、どちらかと言えば旅寄り(ロングライド)の方の2種類に分けられるのは、何度もご紹介してきたとおりです。

そしてもう一つのカテゴリーが、旅行目的の非サイクリストの方々(レンタサイクル利用者など)です。ですから、サイクリングマップは大きく3つに分類されると考えられます。そしてそれぞれは、欲しい情報がまったく異なります。順を追ってみていきたいと思います。

 

競技系サイクリスト: マップは見ないけれど…

結論から申し上げると、この方々にマップは不要です。この方々は「自転車に乗って走り続けること」が主たる目的ですので、それ以外は全て「目的以外の余計なもの」になります。強いて言うならばチューブを売っている場所など、緊急対応ができる場所が知れるとありがたい程度です。

 

ロングライド系サイクリスト: 景色とグルメが魅力

一方で、ロングライド系サイクリストはサイクリングしながら旅行を楽しむ層です。この層は走るだけでなく、地元の魅力にも触れたいと考えています。ですから、競技系サイクリストよりもサイクリングマップを手に取る可能性があります。となると、写真映えポイントや、おすすめ飲食店などの情報がこの方々にとって価値ある情報になります。パンク時の緊急対応などはこの方々にとっても嬉しい情報なので、載せておいた方が良いかもしれません。

 

一般的なサイクルツーリズムではこの2者向けのマップを作ることが多いと思いますが、注意が必要です。それは、この方々の出で立ちです。この方々は概ね「サイクリングウェア」を着ています。このウェアは走りながら荷物を出し入れできるよう、背中にだけポケットが付いています。

走りづらくなるので、バッグを背負うことは少ないです。したがって、マップはこのポケット幅でも出し入れしやすいサイズにしておく必要があります。信号待ちのような一瞬止まった時にさっと出して、確認して、またポケットにしまう、という作業を繰り返しますので、地図の折り方にも配慮しておくと良いでしょう。暖かい時期は汗で濡れる可能性も高いので、そこへの配慮もあるとなお良いでしょう。

 

一般の旅行者: サイクリングは手段、旅行が目的

この方々は、その地域を楽しむことが主たる目的です。ですから、地域のことが詳しく知れるマップを手に取って巡るという確率は高いです。サイクリストと違って荷物を入れるバッグも持っていますので、マップを持っていくことに抵抗はありません。ただここで重要なのが「どのマップを手に取るか」ということです。レンタサイクルを借りるからと言って、この方々はサイクリングに来ているわけではありません。その方々が観光案内所のチラシ・パンフレットコーナーで「サイクリングマップ」と銘打っているものを率先して手に取るのでしょうか? 電車の中吊りに化粧品の広告があっても、男性は「視界に入っているけど気づいていない」のと同様だと思います。

 

赤+青+黄は何色?

この3者が欲しい情報を一つのマップに入れようとすると、無理があるのはご想像の通りです。たとえば、サイクリストが乗る距離は数十キロ~100km以上に対し、一般の旅行者は数キロの範囲です。興味関心が「信号が少なく走りやすい」のか「地域をより深く味わいたい」のか。あれもこれもと絵の具を全部入れたら「特色」は出ないのです。

 

その2に続く

この記事を書いた人

西井 匠

自転車なんでも活用博士

スポーツ科学の博士。北京オリンピックではマウンテンバイクチーム監督を務めた。肩書からはバリバリの体育会系と思われがちだが、高校卒業まで帰宅部、大学は農学部という異色の経歴の持ち主。高校時代に単なる旅の足としての自転車からスタートし、最後はスポーツ・競技に至る。この、両極端を知るからこその引き出しの豊富さが好評を博している。
多気町自転車のまちづくりプロデューサー・長野県サイクルツーリズム推進コーディネーターなど

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