サイクリングマップ考その2:地域の魅力を引き出そう

長らく続いた紙のマップ時代が終わりを迎えつつあるように感じます。車でのドライブを振り返ってみても、冊子タイプの地図(私はマップルを愛用していました)がカーナビにとってかわられ、さらにスマホの地図アプリへと、わずか20~30年ほどで劇的に変化しました。今回はこれからのマップのあり方・作り方について、考えてみたいと思います。

紙マップ時代の終焉

Googleマップ等に載っている情報は非常に詳細で誰もが手軽にアクセスできるため、紙マップ以上の情報がそこにあります。それに加えて現在地表示や自動スクロール、常に最新地図への更新など、紙のマップをはるかに凌駕する時代になりました。

また、旅行後に捨てられることが多い紙のマップは資源と資金の無駄につながり、持続可能性を求める現在のスタイルにはそぐわないものになりつつあると言えます。実際に、海外ではすでにそのような動きも実装されています。これはシンガポールの動物園ですが、日本の動物園には必ず置いてある紙マップはありません。QRコードを読んで、自分のスマホに表示させる方式になっています。

 地域情報の宝庫、中学生の視点

このような時代ですから、ネット検索で容易に入手できる情報をマップに載せる意味はありません。そこで私たちは、別のアプローチを考えました。googleマップにも載っていないような地域のディープな情報は、その地域を最も知り尽くしている人に聞くのが一番です。丹念に調査検討した結果、私たちの地域ではその中心に中学生がいました。なぜならこの地域の中学生は自転車通学率が97%。しかも行きと帰りで色の違う空を、毎日眺めて走っています。これほど地域の風景を良く知る層はいません。

そこで私たちは地元の中学校に協力を依頼し、地域学習の一環として地域をあちこち回ってもらいました。そして、彼らの目線で素晴らしいと思うポイントをピックアップしてもらいました。ふたを開けてみれば、ネットに載っていない生々しい地域の情報ばかり。オリジナリティの高いマップを作り上げることができました。

紙マップからの脱却、しかしデジタルとは限らない

デジタルマップの利便性は否定しませんが、紙マップならではの良さがあるのも事実です。たとえば、デジタルマップは自ら「情報を取りに行く」能動的なものです。そのため、ふいに視界に入ったものが気になってしまったというような、紙マップによくある受動的な効果は期待薄です。ネット通販で本を買うのか、本屋に行って本を買うのかのシーンが非常に近しいと思います。そこで私たちは、新しいアイデアで取り組みました。マップを紙で作るのではなく、ハンカチ(バンダナ)にして販売したのです。

ハンカチは紙とは異なり、汗や水に強いです。また、使っているうちに折り目から破れてしまうこともありません。まさにサイクリングにピッタリです。販売品ですから、紙マップのように旅行後のゴミ箱に捨てられていることもありません。効果はそれだけではありません。地域の祭りでマップ製作にかかわった中学生が自ら販売、「私たちが作ったマップが売れた!」と、中学生たちの自信にも繋がりました。

この取り組みは好評で、町長や県知事に会えただけでなく、首相官邸にまで呼んでいただきました。

まとめ

紙からデジタルへと変遷していく中、柔軟な考え方が求められていると感じます。たとえば、マップは紙で作るものという既成概念から脱却する・地域の魅力を知り尽くしているのは必ずしも大人とは限らない・・・など、多様な可能性を組み合わせることが重要になってくるでしょう。みなさんが作ろうとするマップも、誰に・どんな情報を・どうやって届けたいのか、それにはデジタルが適しているのか、はたまた紙やハンカチのような印刷物のほうが良いのか・・・じっくり考えてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

西井 匠

自転車なんでも活用博士

スポーツ科学の博士。北京オリンピックではマウンテンバイクチーム監督を務めた。肩書からはバリバリの体育会系と思われがちだが、高校卒業まで帰宅部、大学は農学部という異色の経歴の持ち主。高校時代に単なる旅の足としての自転車からスタートし、最後はスポーツ・競技に至る。この、両極端を知るからこその引き出しの豊富さが好評を博している。
多気町自転車のまちづくりプロデューサー・長野県サイクルツーリズム推進コーディネーターなど

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