観光地に行くとかなりの確率で置いてある「レンタサイクル」。ところが、運用がうまくいっているところと、そうでないところの差が大きいように感じます。今回は「レンタサイクルは、なぜ置いただけでは動かないのか」を掘り下げてみたいと思います。
1 ターゲットは誰?
これまでに各地のご相談に対応してきましたが、レンタサイクルが動かない最大の理由がここだと思います。「レンタサイクルを置いておけば、誰かが借りるだろう」という安易なイメージで置いているだけで、「誰が」「何のために」レンタサイクルを利用するのか...の設定がすっぽりと抜けているケースが多いように感じます。
都市部なのか、地方なのか。
観光なのか、日常の足なのか。
男性なのか、女性なのか。
若者なのか、年配者なのか。
このあたりを整理するだけでも、ぐっと利用者イメージが湧くはずです。
2 自転車はなんでも同じ?
料理なら包丁が何種類もあるように、実は自転車も用途によって細かく種類がわかれています。もちろん、万能包丁が1本あればほとんどの調理ができます。しかし、魚をさばくには出刃包丁のほうが便利ですし、リンゴの皮むきならペティナイフが楽です。それと同じように、自転車も利用者・目的・場所によって、変えたほうが良いのです。なぜなら、自転車の種類によって用途がまったく違うからです。
たとえば、ロードバイクは長距離を効率よく移動できるように設計されているため、時速30km/h~で気持ちよく走れるように作られています。つまり、信号が多い都市部のようにストップ&ゴーを繰り返すことには不向きです。
軽快車(ママチャリなど)はスーパーへの買い物のように、荷物を前かごに載せて近距離を移動するための設計になっています。歩道も走ることが想定されていますので、実用速度域もスポーツバイクよりは圧倒的にゆっくりです。なので、長距離にはあまり向いていません。
事業者の方で特に注意が必要なのは、マウンテンバイクです。豊かな自然を満喫してもらおうと導入したマウンテンバイクが、実はママチャリと同じ強度しかない「見せかけのマウンテンバイク」だったというケースもあります。この自転車 ”Looks like Mountain Bike" を略して業界では「ルック車」などと呼んだりしますが、自転車に詳しくないと見分けるのが困難です。この自転車でオフロードを走行した場合、フレームが折れて大けがする可能性もあります。もし自転車に「この自転車で悪路走行をしないでください」という内容の表記があった場合は、ルック車だと思って間違いありません。
このように
「誰が、どこで、どんなふうに使うのか」
をしっかりイメージして、車種を選ぶ必要があるのです。
3 洗ってないレンタカーはない
そしてもう一つの注意点が、整備されていない、汚れた自転車が多いことです。空気圧が足りないペコペコのタイヤ、チェーンが錆びかけてキコキコ音がする、あるいはその逆、油で黒くてギトギト。ブレーキをかけたらキィーと音が鳴る... そんなレンタサイクルを数多く見てきました。これはレンタカーに置き換えるとわかりやすいでしょう。「お客様のレンタカーはこちらです」と用意された車が、外観も車内も泥だらけで、ブレーキをかけるたびに異音がするものだったら、みなさんはどう思われるでしょうか?
自転車は乗り物であり、お客様の命も載せています。ブレーキなど重要保安部品は常に点検整備しておかなくてはなりません。このような維持管理を誰がするのか、レンタサイクル導入前に決めておく必要があります。
4 「レンタサイクルによって、あなたの1日はこんなに素敵になる」
利用者の目的や用途にマッチせず、汚れていて、整備されていないものが動くはずもありません。動かないため徐々に事業の優先順位も下がり、放置されていくという悪循環が発生しているように見受けられます。
じつはこの悪循環、「そもそもターゲット設定していない」という初期設計のまずさが原因だと思います。
そしてもう一つは「わざわざ自転車に乗ったほうが良い理由を設計していない」ことです。借りてもらうためには、自転車よりも車や公共交通機関で移動したほうが便利かどうか、自転車じゃないと行けない場所かどうかなど、「その移動を、自転車でするべきか否か」を常にセルフチェックしましょう。
いくつか例を挙げます。
この地域は坂が多いから、観光には電動アシストの自転車がいいはずだ
→車でも行くことができる場所なら、車のほうが楽ですよね?
渋滞が多く、一方通行も多いから、自転車で移動したほうが効率的に観光スポットを回れる
→滞在時間の限られている旅行者にとって、移動効率UPはメリット。
ターゲットを明確に設定し、きちんと整備された自転車を用意して、自転車のほうが他の移動手段よりも優れている点を磨き上げる。
「こんな人が、こんな風にレンタサイクルを使ってもらうと、その人の1日はこんなに素敵になる」
サイクリングマップを作るより先に、まずはこのフレーズが完結するようイメージしてみてください!