E-BIKEは地方の2次交通になり得るか?

各地にお邪魔すると

「E-BIKEは地方・地域の2次交通として使えないでしょうか?」

と、まぁまぁの確率で聞かれます。

確かにE-BIKEは電気の力で楽に遠くへ行けるし、上り坂もまるで平坦のように軽やかに走ることができます。エコだからとイメージアップにもなりますし、ガソリン代や税金などもかからないので、維持費の面でも優れています。

このような相談が出てくる背景としては、地方・地域ほど人口減少と、それに伴う公共交通機関の減便・廃止などで、地域内の移動手段に頭を悩ませているケースが多いように感じます。そして、都市部でE-BIKEのシェアサイクルが運用されている実態をみて、E-BIKEを地方の2次交通として使えないか、という相談になるのでしょう。

そこで、今回はE-BIKEが地方の2次交通になり得るかを考えてみたいと思います。

 

目次

  • その移動、なんのため

  • 計算式でチェック

  • 2次交通としてのE-BIKE

  • 例:小さなワイナリー

  • まとめ

 

その移動、なんのため?

実は、これが一番重要だと思っています。より具体的には「誰が、何のためにE-BIKEを利用するのか」です。

最も多いご相談は、観光客のための移動手段としての活用です。

「素晴らしい観光スポットや、地域の名店が郊外にあるが、そこまでの公共交通手段がない」

というものです。いわゆるMaaS的な利用方法です。

結論から申し上げると、イエスでもあり、ノーでもあります。なぜなら移動方法は、利用者にとって最も効率的であるか否かで決まると考えられるからです。

 

計算式でチェック

「利用者にとっての効率」とは何か、もうすこし堀り下げてみたいと思います。

あなたは東京から博多まで、荷物を運ぶことになりました。荷物がスーツケースに収まる程度なら、飛行機での移動をまず検討するでしょう。東京~博多ではなく東京~大阪でしたら、新幹線も候補に入るでしょう。もし目的地が博多や大阪であっても、荷物がスーツケース4個もあった場合は、車という選択肢に切り替わると思います。つまり、移動手段は

移動距離×移動時間(乗り換えや渋滞の時間も含む)×荷物量

で、もっとも合理的な方法を選択すると考えられます。

 

2次交通としてのE-BIKE

都市部でE-BIKEのレンタル・シェアバイクが成立するのは、移動距離が短く、運ぶ荷物も少なく、車よりも時間効率の良い移動手段だからです。それを裏付けるように、国交省の資料にも都市部では5km以内の移動は自転車が最も効率が良いとあります。

出典:国土交通省 「自転車通勤導入に関する手引き」について

では、地方・地域に来た観光客はどうでしょう?今回はざっくりと、公共交通機関を利用して観光地を訪れた、宿泊客と日帰り客の2次交通として考えてみます。

 

宿泊客の場合

おそらく、宿泊客がE-BIKEを利用する可能性は限定的でしょう。なぜなら、荷物が多く・大きいからです。

昨今の宿泊客は、コロ付きのキャリーケースで旅行に出かけることが多いと思います。しかも観光・旅行といえばカップルか女子旅が多いのではないでしょうか。女性の荷物が多いのは、言うまでもありません。そのような「大きくて重い」荷物が、はたして自転車に載せられるでしょうか? 旅行の計画段階で宿までどうやって行くかを考えてから、その地域に行くかどうかを検討するはずです。

ただし、宿泊施設に荷物を置いてから出かける場合は、利用の可能性が高くなります。「限定的」としたのは、そのためです。その場合は、宿泊施設にE-BIKEが置いてあると良いでしょう。しかし、宿泊施設が保有する場合、採算性を考えないはずがありません。稼働率が低いうちは自治体や観光協会などがE-BIKEを保有しておいてどの宿泊施設や商業施設にも貸し出せるようにしておき、採算がとれるようになってきたら各施設で保有するというようなプランが効果的かもしれません。

日帰り客の場合

日帰り客をターゲットにした場合、可能性はぐっと高まるかもしれません。理由はシンプル。宿泊客よりも荷物が少ないからです。もし荷物が多くても、コインロッカーなどを利用して身軽になることもできます。

では「E-BIKEのレンタサイクルが駅近くにあれば、借りてくれる」のでしょうか。それは早計と考えます。車より早く目的地に到着できるとか、車では行けない場所に行けるとか、自転車を「わざわざ利用するための何か」が必要です。

また、観光客はたった一つの観光スポットを訪問することは稀です。せっかく訪れた場所ですから、旧跡名勝を訪れ、クチコミで有名なお店でお昼を食べ、地域のお店でおみやげを買い…と、たいていは複数の場所を巡ります。そのように点と点を結んだ距離はどうでしょうか?地方・地域ほど点と点の距離が遠く、点の数が多いほど荷物が増えていく傾向にあると思います。

それでもなお

「E-BIKEを2次交通として使ったほうが、自分たちの旅行が充実する」

というイメージを持ってもらえるよう、ソフト面もしっかり設計しておく必要があります。冒頭で述べた「誰が何のためにそのE-BIKEを使うのか」が明確かどうか、です。少し例を挙げてみましょう。

 

例:小さなワイナリー

  • 今回の旅行は温泉宿。温泉宿は郊外にある。駅までは宿が迎えに来てくれる。
  • 宿から数kmの場所に小さなワイナリーがある。ブドウ畑に隣接している。
  • 畑に隣接しているぐらいだから、そもそも郊外。2次交通が存在しない。
  • 宿は郊外にあるため、駅前のタクシーを呼ぶと時間もお金もかかる

こういう状況の時に宿泊施設がE-BIKEを持っていると、観光客が使う必然性が出始めるはずです。

 

さらに

  • ブドウ畑は映えるので写真を撮りたいが、農道は細いので車を停めるスペースは無い
  • ワイナリーまでの道中に「googleマップにも載っていない、お勧めスポットがある」と宿の人に聞いた

などが加わると、

「E-BIKEを2次交通として使ったほうが、自分たちの旅行が充実する」

が高まると思います。

まとめ

E-BIKEが「楽に移動できる」のはもちろんメリットですが、「楽に移動できる」という価値で車に勝つのは至難の業です。「車よりも移動時間が少なく済む」「車では実現できない何かがある」など「車以上の価値」を提示することが、大切だと思います。

この記事を書いた人

西井 匠

自転車なんでも活用博士

スポーツ科学の博士。北京オリンピックではマウンテンバイクチーム監督を務めた。肩書からはバリバリの体育会系と思われがちだが、高校卒業まで帰宅部、大学は農学部という異色の経歴の持ち主。高校時代に単なる旅の足としての自転車からスタートし、最後はスポーツ・競技に至る。この、両極端を知るからこその引き出しの豊富さが好評を博している。
多気町自転車のまちづくりプロデューサー・長野県サイクルツーリズム推進コーディネーターなど

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