そのイベント、本当は誰に来てほしい?~自転車大会を例に~

私はこれまでに選手として、監督として、審判として、運営スタッフとして・・・いろいろな形で自転車の大会に参加させていただきました。その経験をもとに、日本国内でもマウンテンバイクの国際大会をはじめ、数多くのイベントを企画運営してきました。そこで感じた海外と国内の一番大きな差は、日本のそれとは比較にならないほどの観客数でした。その中でも最大の衝撃は、普段は自転車に乗らないだろう人々…たとえば、孫を連れたお婆ちゃんや、恰幅の良いご夫妻が、観戦料を払って来場していることでした。それもすごい人数が!

一方で日本の自転車イベント(主にレース)の現状としては、観客がごくわずかです。いえ、観客はいるのですが「自分のレースが終わった選手」や「チームのスタッフ」など、いわゆる関係者が観客化しているほうが一般観客の数より多い傾向にあります。もちろん、中には一般観客のほうが多いイベントもありますが、数えるほどしかありません。

このような体験をもとに、主催するイベントでいかに観客を動員するかを熟慮し、試行錯誤しました。最終的には2日間で延べ2000人の来場者を動員したほど、国内のマウンテンバイク大会としては異例の大盛況イベントを実現することができました。

このときテーマにしたのは

「自転車に接点のない人々に、いかに接点をつくるか」

でした。

自転車のポスターは、サイクリストしか見ない

ほとんどのイベント主催者は、イベント告知のポスターを作ると思います。そこでよく見るポスターは、選手が走っている写真や自転車をモチーフにしたイラストなどです。しかしそのようなポスターは、大会に関係する人・自転車に興味がある人しか見ません。例えるなら、電車の中吊りに化粧品の広告があっても、男性は気づいていないのと近いかもしれません。

そこで、なるべく多くの人が興味関心をもってくれるように、地元のおばあちゃんをモデルに起用した刺激的なポスターを地元のクリエイターと一緒に仕上げました。

このポスターの効果は絶大でした。コスプレのような出で立ちと、スパイスの効いたキャッチコピー。町立図書館では

「文武問わず数多くのポスターを貼ってきたけれど、皆がこれほど足を停めていったポスターはなかったわ!」

と司書さんが教えてくれました。

 

接点の創出

ここでは、二つの接点を創出しています。ひとつは、自転車には全く興味がないけれど、キャッチーなポスターを思わず見てしまった人。もう一つは、モデルになってくださったおばぁちゃんと、その周りの人々です。

前者は薄く広い効果ですが、後者は狭く深い効果です。実は、後者が想像以上に効果的でした。

「あんた、えらいカッコになっとるな~!笑」

などと、おばぁちゃんの家族や友人、近所の人々まで話題にするほど。まるで波紋のように、あっという間に接点を持ってしまった人々が増えていきました。

 

観戦有料化の真意

大会当日は500円の観戦料を徴収しました。これを知った一部の選手・関係者から

「ただでさえ観客が少ないのに、有料化したらもっと少なくなる!」

と猛反発がありました。しかし蓋を開けてみれば、2日間で延べ2000人の来場者。審判から「観客が多すぎて、選手のことがよく見えない!なんとかなりませんか!?」との悲鳴があがったほど。なぜこれほどの来場者があったのでしょう?

有料化の真意は、収益ではありません。「町民は無料招待」のスキームを構築したかったのです。町の広報誌に招待券を挟み、全戸配布しました。また、その招待券を持っていれば、連れの方も無料で入場できるようにしました。

「おれと一緒に来ると無料で観戦できるけど、お前も一緒に来る?」

さらに接点が増えていきます。

出典:当時のNHKニュース東海版

 

大会「プログラム」ではなく「大会マガジン」

無料招待券と一緒に、大会プログラムも事前配布しました。

これまでの大会プログラムは、会場で当日配られ、主に大会当日のスケジュールが書いてあるものでした。これでは、新たな接点が生まれません。私たちは一般の人々が「読んで面白い」記事を盛り込み、小冊子のようにしました。

たとえば、「駅前自転車預かり所の1日」。自転車に関係ある話題ですが、かなり一般的な話題です。これに6ページ割きました。当日スケジュールの6倍です。笑

記事に興味を持っていただき読み進めると、つぎは選手年鑑など、だんだんと大会に興味をもっていただけるようにしました。取材に協力してくださった自転車預かり所には、もちろん例のポスター。しかも駅前です。がんばって接点を増やしていきました。

 

大会MCはなじみのある声で

大会MCには、FM三重のパーソナリティにお願いしました。聞きなれたラジオの声の人が、そこにいるわけです。ある意味で公開録音のようなものです。自転車に興味はなくとも、そのパーソナリティのファンの方なら、会場に来てくれたこともあったかもしれません。

放送席にはマウンテンバイクに詳しい解説者もつけました。この選手は○○県から来ているとか、この展開だとあの選手が抜け出すだろうとか、「人」にフォーカスしてもらえるような情報をたくさん提供してもらいました。

一般の方に寄りそった情報と、マニアにも通ずる解説。これらの相乗効果が、どちら側の人も楽しめる放送になっていたと思います。

 

寄ってらっしゃい、見てらっしゃい

これまでの大会では、ほとんど関係者しかいなかったこともあって、チームブースは単なる控室みたいになっていました。しかし、私たちが目指したのは観戦スポーツです。プロは観客がいて、見てもらってなんぼです。マウンテンバイクはマイナースポーツですから、テントの奥に控えていたら観客からサインを求められるなんてことは稀です。なので、選手みずから積極的に動かなくてはならないと考えました。そこで、チームブースを予約するには条件を付けました「観客のためのサービスタイムに参加すること」と。

いつもはチームブースの奥にいる選手たちも、このサービスタイムでは気さくに応じてくれます。グッズ等を配りながら「応援よろしくお願いします」・・・選手にとっては、新規のファン獲得にもなります。観客もいろんなグッズをもらったりして、満足度が高くなります。

 

最後はまさかの逆接点

大会会場ではなんと

「あのポスターのおばぁちゃんですか?一緒に写真いいですか?」

というシーンが見られました。

地域から外に向けたベクトルが、外から地域へのベクトルを創出した…まったく想定外の、嬉しい誤算でした。

 

おわりに

最終的には2日間で延べ2000人の来場者を動員したほど、国内のマウンテンバイク大会としては異例の大盛況イベントを実現することができました。大会参加者を集めたい場合はこのかぎりではありませんが、地域を巻き込むかたちで新たな接点を創出したい方への参考例になれば幸いです。

この記事を書いた人

西井 匠

自転車なんでも活用博士

スポーツ科学の博士。北京オリンピックではマウンテンバイクチーム監督を務めた。肩書からはバリバリの体育会系と思われがちだが、高校卒業まで帰宅部、大学は農学部という異色の経歴の持ち主。高校時代に単なる旅の足としての自転車からスタートし、最後はスポーツ・競技に至る。この、両極端を知るからこその引き出しの豊富さが好評を博している。
多気町自転車のまちづくりプロデューサー・長野県サイクルツーリズム推進コーディネーターなど

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